「最近の若手は教えてもすぐには動けない」「何度言っても同じミスを繰り返す」──そんなふうに感じたことはありませんか?
管理職や指導担当者をされている方であれば、「部下がなかなか育たない」と感じる場面は誰しも一度は経験するのではないでしょうか。
ですが、こうした悩みの原因を本人の資質や若手だからと考え、本人だけに改善を任せてしまっては、今後の組織としての成長には繋がらないかもしれません。
実際には、部下の成長が停滞しているとき、そこには「育成の方向性」「成長への期待のかけ方」「環境づくり」など、上司や組織側にも、見直すべきポイントがあります。
人材育成は、単に知識や技術を教え込むだけでなく、部下自身が「自分で考え、行動できるようになる」こともかなり重要です。
この記事では、「部下が育たない」と感じたときにこそ立ち止まり、上司や組織が見直すとよい3つの視点をご紹介します。育成に悩む管理職の方、人材定着に課題を感じている経営者や人事の方にとって、実践的なヒントとなれば幸いです。
<目 次>
第1章:「育成の方向性」は共有されているか? 〜教える内容よりどう育てるかの方向性を明確に〜
第2章:期待のかけ方は適切か? 〜“理想像の押しつけ”になっていないか?〜
第3章:育成を支える“環境づくり”は整っているか?〜「本人の努力次第」にしない仕組みとは〜
終章:部下が育つ組織には「見直してきた仕組み」がある
第1章:「育成の方向性」は共有されているか?
〜教える内容よりどう育てるかの方向性を明確に〜
部下を育成する際に多くの上司が意識するのは、「何を教えるか」という内容です。
もちろん業務上必要な知識やスキルを伝えることは重要ですが、もう一歩踏み込んで考えるべきなのが、「どう育てるか」という方向性です。
つまり、部下がどのように成長し、最終的にどのような姿になってほしいのか。
この“育成の理想像”が上司と部下の間で共有されていることが、最終的な育成の結果を大きく左右します。
多くの企業では、「自律性」「自発性」などを、社員に求めているケースが多いです。
そこで重要なのが、「自律的(自発的)な人材」というゴールをどう捉えるかということです。
自ら考え、判断し、周囲と協力して動ける人材を育てたいという想いは多くの現場に共通しているかと思います。ですが、それを言語化できていない組織も少なくありません。
その結果として、部下には曖昧な期待しか伝わらず、「教えたのにできない」「自分で考えようとしない」というミスマッチが起きてしまうのです。
このズレを防ぐためには、育成のステップを段階的に明文化することが有効です。
たとえば、「3ヶ月後にはこの業務を1人で回せるようにする」「6ヶ月後には業務改善提案ができるようになる」といった具合に、ゴールへの道筋を“可視化”することで、本人も上司も進捗を客観的に捉えやすくなります。
【具体例】育成マップで部下の成長像を共有した企業の取り組み
ある製造業の企業では、新人教育に「育成マップ」を導入しました。
これは、入社から半年間でどのような力を身につけてほしいかを3ヶ月・6ヶ月単位で示した成長計画表です。
初期は「業務の正確な実行」「報連相の徹底」など基礎行動が中心ですが、レベルアップしていくにつれて「課題発見・改善提案」など、自律的な力にシフトしていきます。
このマップをもとに上司と部下が月1回、進捗を確認し合う機会を設けたところ、「何を求められているのかがわかった」「自分の成長が見えるので前向きになれた」といった声が部下から上がるようになりました。上司側も、漠然と「まだ育っていない」と感じるのではなく、具体的な指導ポイントを把握できるようになり、育成への納得感が高まったといいます。
また、育成には当然、個人差があります。すぐに戦力化する人もいれば、時間をかけてじっくり伸びる人もいます。
しかし、「育つスピードが遅い=劣っている」と捉えてしまうと、せっかくの人材を失いかねません。
ポイントは、個々の育成ステップを認め、成長曲線の違いを受け入れられる職場づくりです。
育成マップのように“段階ごとの目標”があれば、上司も部下も焦ることなく、それぞれのペースで成長を支援できるのです。
第2章:期待のかけ方は適切か?
〜“理想像の押しつけ”になっていないか?〜
「自分が若い頃はもっと厳しく鍛えられた」「新人でもこれくらいはできて当然」──
こうした言葉は、つい口にしてしまいがちですが、受け取る側の部下にとってはプレッシャーや戸惑いにつながることが少なくありません。
特に世代間で価値観が異なる現代では、過去の自分と比較した“理想像の押しつけ”は、育成効果を損なうだけでなく、部下の自信を奪い、行動の萎縮を招くリスクすらあります。
期待は人を育てる大切な力です。しかし、そのかけ方を誤ると、成長どころか「どうせ自分にはできない」「何をしても叱られる」といった無力感を植え付けてしまうことがあります。
重要なのは、「すべきだ」という圧力ではなく、上司も本人も「できる」と信じることです。
つまり、「〇〇ができるようになってほしい」ではなく、「あなたならきっとできる」と伝えることで、部下は“評価”ではなく“応援”としてその言葉を受け取ることができるのです。
【具体例】成果ではなく“行動変化”に注目する指導法
ある営業部門では、部下に対して成果ではなく行動の変化に期待をかける指導法を取り入れています。
たとえば、「売上を上げろ」ではなく、「お客様との接点を1日2件増やす」「提案資料を先に上司に相談する」といった具体的で行動ベースの期待を伝えるのです。
その結果、部下たちはできなかった結果に落ち込むのではなく、“変えた行動”に意識が向くようになり、少しずつ自信と実績を積み上げていきました。指導者側も、「この行動をしてくれたら嬉しい」と伝えることで、過度なプレッシャーを与えずに成長を促すことができたといいます。
【Tips】期待が届く伝え方 〜I(アイ)メッセージと具体フィードバック〜
期待を伝えるときには、主語を「あなた」ではなく「私」に置き換える“I(アイ)メッセージ”が有効といわれています。
例:
✕「これをやってほしい」→ ◎「〇〇さんがこの業務を担ってくれると、私はとても助かる」
✕「もっと早く対応してほしい」→ ◎「先にこれをしてもらえると、私も安心できる」
また、行動に対するフィードバックも「抽象的」ではなく「具体的に」行うことがポイントです。
例:
✕「最近、頑張ってるね」→ ◎「昨日の報連相、いつもよりタイミングが早くて良かったよ」
このような伝え方によって、部下は「自分の何が評価されているか」「どこに期待されているか」を明確に理解できるようになり、成長意欲が自然と引き出されていきます。
第3章:育成を支える“環境づくり”は整っているか?
〜「本人の努力次第」にしない仕組みとは〜
育成において、部下本人の意欲や能力はたしかに重要です。
しかし、それに任せきりの状態では、成果に大きな個人差が生じ、「育つ人」と「育たない人」の差が開いてしまいます。
特に、教える上司によって育成の質や内容にバラつきがある職場では、部下の努力に任せているだけでは、再現性のある人材育成は困難です。
人材育成の理想は「属人的な指導」ではなく、「組織として支える仕組み」で行われるものだと考えています。
たとえば、OJT担当者が持つべき視点をまとめたガイドブック、初任者の育成計画シート、月ごとの進捗確認の面談設定など、育成の流れを標準化・可視化することで、どの部署・どの上司でも一定の質の育成が実現できます。
さらに重要なのは、部下が“学びやすい”と感じられる職場の空気です。
たとえば、「質問しにくい」「失敗すると責められる」といった雰囲気がある職場では、どれだけ制度やツールが整っていても、成長しづらいでしょう。
特に現代の若手社員は、「安心して聞ける・話せる環境」を強く求めています。
上司やチーム全体が、“学ぶこと”や“試行錯誤すること”を肯定する文化を持っているかどうかは、現代の職場環境において育成の結果を大きく変えます。
【実例】毎月の1on1・振り返りミーティングで変わった管理職の行動
ある中小企業では、毎月1回の「1on1ミーティング」と「振り返りシート」をセットで運用するようになりました。
これは単なる雑談や評価面談ではなく、部下自身に「今月の挑戦」「来月の目標」「困っていること」を言語化してもらい、それに対して上司がフィードバックする場です。
実施を始めて半年後、現場からは「部下と話す時間が確保されたことで信頼関係が深まった」「漠然と育てているから、具体的にどこをどう支援するかに変わった」という声が上がりました。結果的に、管理職の育成行動も改善され、部下の離職率の低下にもつながったそうです。
【チェックリスト】育成環境が整っている組織に共通する5つの特徴
以下の項目は、育成の“仕組み”が整っている組織に共通するポイントです。自社の状況と照らし合わせてみてください。
☑ OJT担当者への指導方針やマニュアルが用意されている
☑育成計画(目標・スケジュール)が文書化され、共有されている
☑定期的な面談やフィードバックの時間が確保されている
☑上司・先輩が“質問を歓迎する”姿勢を示している
☑失敗や試行錯誤が許容される、心理的安全性のある職場である
どれか1つでも欠けていると、その育成は「偶然」に頼ったものにすぎず、組織としての「仕組み」とはいえません。
逆にこれらの要素がそろっていれば、どんな人材にも「育つチャンス」を与えることができます。
終章:部下が育つ組織には「見直してきた仕組み」がある
「部下が育たない」と感じるとき、私たちはつい本人の性格や意欲に原因を求めがちです。
ですが実際には、“育たない”のではなく、「育てるための方向性・関わり方・環境」が整っていないだけかもしれません。
第1章では、育成の方向性──つまり「どんな人材に育てたいか」が曖昧だと、教え方も期待もズレてしまうことを確認しました。
第2章では、過度な期待や理想像の押しつけが、部下の成長を妨げることを解説しました。
そして第3章では、育成を「仕組み」として支える環境がなければ、再現性のある育成は実現できないことを見てきました。
育成は、特別な才能を持った人にしかできないものではありません。
誰もが一定の質で関わることができるよう、「見える育成」「支える仕組み」「認める文化」を組織として整えていくことで、部下の成長は確実に促進されていきます。
まずは、ご自身の職場やチームの「育成のあり方」を振り返ってみてください。
・育成の方向性は共有できていますか?
・期待のかけ方は伝わっていますか?
・環境は整っていますか?
もし一つでも不安があるなら、そこが”変化の出発点”です。
小さな取り組みでも構いません。育成マップの作成、1on1の実施、フィードバックの見直しなど、できることから始めてみましょう。
人が育つ組織は、やがて人を惹きつけ、人が辞めにくい組織へと変わっていきます。
「育てる力」は、組織の未来をつくる力です。