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未だ心を揺さぶられるM&A受託案件【第二編】 
~会社の存続はつなげたが、経営者の人生は・・・~

経営者がM&Aによる譲渡を検討される理由は、実に様々です。私が携わってきた案件でも、後継者問題、健康面での不安、先行きの不安などが、きっかけとなることが多くありました。
今回は、その中でも特に心に残っている案件について、お話ししたいと思います。

A社の社長と初めてお会いしたのは、2008年4月。弊社が開催したM&Aセミナーにご参加いただいた際でした。
セミナー終了後、A社社長は私にこう話されました。
「これまで必死に会社を守ってきたが、後継者がおらず、そろそろ事業承継を考えている。そこでM&Aについて学びたい」
「3~4年後には引退をしたい」
そして、少し声を落としながら、こう続けられました。
「実は健康面に不安がある。あなたに後見人になって欲しい」

後見人という言葉を経営者から突然聞いたのは、後にも先にもその時だけでした。当時は驚きより戸惑いの方が大きかったのですが、今思えば、それほどまでに将来への不安を抱えていらしたのだと、深く感じています。

A社社長は、関西の商船大学校をご卒業後、造船関連企業へ勤務。その後独立し、船舶関連商品を扱う商社を立ち上げられました。
海外から商品を仕入れ、販売先は国内大手造船企業が中心。さらにはアジアにも支社を構え、従業員数約30名、売上40億円、経常利益2億円という、堅実かつ立派な経営をされていました。
余談ですが、商船大学校のご出身者同士は、若い頃に長い時間を海で共に過ごすため絆が強く、社会に出てもその関係が続くのだそうです。A社社長と接していると、その義理堅さや仲間を思う気持ちから、その背景がよく伝わってきました。

そして、セミナーから4年後の2012年。A社社長へ改めてM&Aの提案を差し上げたところ、即座にご依頼をいただき、すぐに候補企業の選定に入りました。
すると、事業内容・財務状況ともに申し分ない企業であったことから、候補はすぐに見つかりました。その中でも最初に手を挙げられたのが、関東に本社を構え、事業歴が長く健全な経営をされてきたB社でした。シナジー効果が高いことを確信されていたのだと思います。

A社、B社それぞれの社長は同年代であり、船舶という共通のバックグラウンドを持つことから、初回面談の時点で意気投合されました。
さらにお二人とも大変お酒好きな方で、基本合意から最終契約までの間、何度も行き来し、プライベートでも語り合われていたそうです。事業への想い、未来への希望。その時間はきっと、経営者同士だからこそ交わせたものだったのだろうと思います。

このような関係性が築かれるケースは非常に稀であり、今でも私の記憶に強く残っています。

最終調印を済ませ、社員発表後にA社社長がB社社長へ贈られた御礼の言葉の一部を紹介します。

○○社長殿

○○社長のお人柄と貴社の素晴らしさを説明して、○○社長の「統合挨拶」を読み上げました。
両社の社員は実力勝負、全く公平に評価していただける事は協調させて貰いました。
これで小生引退後も社員は安心して、業務に励めることを説明しました。
社員一同、安心してくれたと思います。

小生もあと2年余り、○○社長のご指導のもと、弊社の更なる発展のために頑張りますので宜しくお願い致します。

また、M&A終了後、A社社長が私にくださったメッセージです。

河野先生

お祝いの言葉をいただきありがとうございました。

1年前に河野先生からのご連絡がなければ、未だにM&Aに対して具体的なアクションを取ることなく、小生引退後の弊社をどうすべきか迷っていたと思います。

いいタイミングでご連絡いただき、小生は非常にラッキーでした。

また、○○○○社殿のような、良い会社を御紹介いただき、話を纏めていただき、深謝しております。

これで弊社の社員は小生引退後も末永く、勤務する事ができます。

小生も○○○○社殿にA社をM&Aして良かったと思っていただけるよう、あと2年間代表取締役として尽力致します。

そして、
その御礼メールをいただき、M&Aが成約してからちょうど一年ほど経った頃のことでした。

A社のご担当者より一本の連絡が入りました。
「社長が、海外出張中に倒れ、そのまま帰らぬ人となりました。」

あまりに突然の知らせに、私はその場で言葉を失いました。

しばらくして胸に浮かんだのは、A社社長が引退後の過ごし方について語られた、穏やかな笑顔でした。

「船が好きだから、クルーズ旅行でもしながら、ゆっくり過ごしたい。」
「これからは、心の豊かさを求めて生きたい。」

その言葉は、今でも私の耳に残っています。
まるで、人生の次の航路を静かに描いていたようでした。

いかがでしたでしょうか。

このM&Aは、企業としては大変理想的な形でバトンを渡すことができました。
しかし人生という長い旅路においては、社長自身がその続きの時間を生きることが叶いませんでした。

この出来事を経験して以来、私は健康面に不安を抱える経営者様には、特にこうお伝えするようになりました。

「後継者選び、そして事業承継の準備は、早すぎるということはありません。」

「まだその時期ではない」
「もう少し状況が整ってから」
そのように仰る経営者様は多くいらっしゃいます。
しかし、事業も人生も、いつでも思い通りに進むとは限りません。

だからこそ、未来を託す準備は、元気なうちに。
迷われているのであれば、どうか一歩踏み出すことをお薦めします。

(ライター:河野 隆)

前回記事『未だ心を揺さぶられるM&A受託案件
―経営者が抱く情熱のバトンタッチ―』はこちらから


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